大判例

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東京高等裁判所 昭和43年(う)1989号 判決

被告人 藤原浅雄

〔抄 録〕

論旨は、要するに、原判決は被告人が相手方の手にしていた一〇〇〇円札一枚をひつたくり窃取した事実を認定したが、被告人は相手方から競馬の勝馬予想を尋ねられたので、それを教え、祝儀を要求したところ、相手方はそれを承諾し、被告人が相手方の手にしていた札を取るのを黙認していて、結局それを予想代としてくれたのであるから、被告人の行為は窃盗罪を構成しない。従つて、これを窃盗とした原判決は採証の法則に違反し事実を誤認したもので、その誤りは判決に影響を及ぼすことが明らかであるから、原判決は破棄を免れないというのである。

よつて、記録を調査して考察すると、原判決摘示の窃盗の事実は挙示の証拠によつて優に肯認することができる。所論は相手方の承諾をいうが、右証拠、なかんずく証人小林正義、同川上礼の原審公判における各供述によると、被害者である原判示小林正義は、原判示の当日原判示競馬場における第二か又は第三レースの払戻所付近で全く初対面の被告人から勝馬の予想を教えるから階段の所に来いといわれたので、内心第五レースには「一―五」の投票券を買うつもりであつたが被告人の許に行つたところ、被告人から「一―五をまとめて買え」と教えられ、なお、「当れば祝儀をくれよ」といわれたので、一般の例にならい、また被告の人言葉のとおり当つた後に祝儀を出すつもりで「いいでしよう」と答え、同レースの投票券売場に行き右の投票券その他を買い入れたこと、然るに、被告人は、右の投票券売場まで被害者について行き、その付近において、被害者が左手に持つていた一〇〇〇円札二枚のうち一枚をひつたくり取つたこと、その際被害者は何も言わず、又何もしなかつたが、それはあつけにとられたためであつて、もとより被告人に一〇〇〇円をやる意思はなかつたこと、被告人の行動に目をつけ、右の状況を目撃していた警備員川上礼が被告人の行為を窃盗と判断して被告人を逮捕し、詰所に連行して警察官に引き渡したこと、なお、右レースの「一―五」は外れ、結局被害者は被告人に対し祝儀を出す要は全くなかつたことが認められ、従つて、被告人が被害者の手から一〇〇〇円札を取るについて被害者の承諾がなかつたことはもとより、被告人において被害者の承諾があつたものと誤信したという事情もなく、被告人は被害者の承諾がないことを承知のうえ右の行為に出たものであることが明白である。してみると、被告人は、不法領得の意思をもつて、被害者の所有し、所持していた財物を被害者の意思に反し自己の占有に移したものであるから、被告人の所為が窃盗罪を構成することは明らかであり、犯意を阻却すべき事情は見当らない。所論は警備員川上礼らが本件を窃盗と判断したのは同人らの独断であり、同人ら作成の現行犯逮捕手続書中被害者が逮捕者である警備員に対し被告人に一〇〇〇円を盗られた旨述べたとの部分は誤りであるというが、本件が窃盗であることは前認定のとおりであり、所論が利益に引用している前記証人小林正義の原審公判における供述中被害者が警備員の質問に対し金はとられない旨答えたとの部分は、同証人のその余の供述部分に徴し内容において真実でないことを答えたものであることが明らかであり、また前記認定に反する被告人の捜査当時からの供述は措信できない。それ故、原判決には所論のような採証の法則違背、事実誤認のかどはない。論旨は理由がない。

(石渡 藤野 中島)

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